FLASHノベル: 2010年5月アーカイブ

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皆さんはメイドさんと聞いてどんなイメージを抱くでしょうか? え? ええっ? えっちなのはいけないと思います!>< ・・・そんな夜のご奉仕的な妄想系メイドさんは別として、普通はお掃除とか片付けとかしてくれる姿を思い浮かべる方が大多数かと思います。
そんなメイドの中のメイド、まさにメイドと言えばこのイメージ!というメイドさんが、ハウスメイド(House Maid)です。強引に直訳してしまうと家女中ですが、普通に日本語でメイドって言えばこのメイドさんが該当するんじゃないでしょうか。


お仕事の内容は、家事全般。掃除機のない時代ですから、掃除にかなりの時間を割いていたようです。もちろん掃除以外にも、ベッドメイクや日用品の補充、お風呂や暖炉に灯りの用意まで幅広い仕事を担当していました。基本的に台所女中(キッチンメイド)や洗濯女中(ランドリーメイド)といった専門職メイドさんの担当区分以外は、全て家女中(ハウスメイド)の仕事と言って差し支えないでしょう。
ちなみに多くのメイドを雇えない小さい屋敷では、専門職メイドさん達の仕事を肩代わりして何でも対応しなければなりませんでした。「メイドくん」作中には出てきませんが、そんな全ての職種を兼ね備えなければならないメイドさんを雑役女中(メイド・オブ・オールワークス)と呼びます。


せっかくなので今回は、家女中(ハウスメイド)の一日を紹介します。


まずは朝、起床は6時ぐらいです。暖炉に火を入れるところから一日の仕事は始まります。基本的にハウスメイドは、御主人様の家族や客人に姿を見せず「妖精のように」仕事をすることが求められました。そのため主人達が起きてくる前に、ひと通りの掃除を済ませておく必要がありました。午前中に使われる予定の朝食室や応接間、玄関ホールなどの掃除を行い、カーテンを開けて朝の新鮮な空気を取り込みます。
奥様を起こすのは、ハウスキーパー(家政婦)の仕事です。しかしそのハウスキーパーを起こすのは、ハウスメイドの仕事でした。下位使用人であるハウスキーパーは、上位使用人達の世話も仕事のうちだったのです。


使用人の朝食は朝8時ぐらいに、仕事の合間を見計らって手早く済ませます。ようやく主人達が起きてきて朝食室へ行くのは、朝9時から10時ぐらいの間。すかさずハウスキーパー達は寝室へ突入。ここでも階上の人々の目を避けつつ仕事をします。掃除、ベッドメイク、小物の用意、全て部屋の主が居ないうちに済ませました。あと、トイレの片付けも大事な仕事でした。
どうでもいい話ですが、「メイドくん」の作中は史実のようなおまるではなく、ちゃんと個室のトイレがある設定です。そこはファンタジーで! 史実の中世おトイレ事情は、調べてみると面白いかもしれませんよ?


午前中はとにかく掃除です。メイド服も午前中は掃除用デザインで、午後用の制服とは違うものを着ていました。日常的な掃除の他、ローテーションで大掛かりな掃除や補修も行っていました。月曜日は玄関ホール、火曜日は応接間、といったカンジです。
掃除といっても単にゴミやホコリを掃くだけではなく、磨き掃除も含まれていました。木材、石材、金属と、磨くものによって掃除道具も異なります。想像しただけで腰が痛くなってしまいそうな重労働でした。特に冬の暖炉磨きが辛かったみたいです。


お昼の12時に、使用人のディナーとなります。当時の労働者階級は、昼食がディナーでした。ちなみに主人達の昼食は13時頃。昼食の後は洗濯物の回収とか掃除の続きとかをして、15時過ぎにはひと通りの仕事が落ち着きました。ようやくお茶の時間となり、ひと息入れることが出来ました。
お茶の後に重い仕事はありませんでした。主人達の行動を予測して使われるであろう部屋へ先回りして、軽い掃除や整頓、暖炉や灯りを用意するなどして快適な住環境を維持するぐらいです。そして主人達が部屋から出て行けば、やはり速やかに片付けをしました。


他には主人の家族や客人達の呼び出しに応じて、あらゆる雑用を行いました。その中には、腰湯の用意なども含まれます。史実のヴィクトリア朝時代にはお風呂はまだ一般的ではなかったので、タライに湯を張ってお風呂代わりにしていました。そのお湯はもちろん、ハウスメイド達が運ばなければならなかったのです。「メイドくん」作中ではフィクションらしく、普通に浴室が出てきますけどね。
夜8時ぐらいに主人達の夕食があるので、その準備と片付けをして、さらに寝室の用意をすれば一日の仕事はお終いです。夜9時に自分達の夕食を摂り、その後は自由時間でした。22時過ぎには戸締まりと消灯をして、就寝していたようです。


これがメイドさん達の標準的な一日です。いかがだったでしょうか? 夕食会や舞踏会などがあって、多くの客人が訪問している時などはもっと多忙でした。さらに今回紹介したのは大きな屋敷で働くメイド達のパターン。彼女らは大人数で役割分担していたので一人当たりの仕事量が少なく、比較的恵まれていました。
逆に一人で全ての仕事をしなければならない小さな屋敷のメイド・オブ・オールワークス(雑役女中)は、ここで紹介したスケジュールよりはるかにハードな日々を過ごしていました。実はメイドさんの大半は、後者だったと言われています。「メイドくん」に出てくるメイドさん達は、かなりラッキーな部類だったりするのです。

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イギリスは格差社会の国です。階上の人々(貴族階級や紳士階級)と階下の人々(労働者階級)を分け隔てる壁は、絶対的なものでした。「二つの国民」というフレーズが有名ですね。しかし、人々を区分していた階級は、それだけではありません。階下の人々の間にさえも、階級差別は存在していたのです。むしろ使用人達の間での差別の方が、メイド本人にとっては直接的かつ切実な問題だったのではないでしょうか。
まぁ、今の日本にだって、企業内の経営層・管理職・平社員の壁とか、正社員・契約社員・派遣社員の壁とかありますからね。国や時代が違っても、その辺りはあまり変わらないのかもしれません(汗。


使用人達の階級は、まずは職種によるクラス分けがされていました。上級使用人と、下級使用人です。もっとも「二つの国民」みたいな出身依存の階級と違って、努力と才能と運次第では、経験を積むことで上位の職種へクラスチェンジすることが可能でした。代表的なところではこんなカンジです。


小姓(ページボーイ)→ 従者(フットマン)→ 執事(バトラー)
家女中(ハウスメイド)→ 蒸留室女中(スティルルームメイド)→ 家政婦(ハウスキーパー)
洗場女中(スカラリーメイド)→ 台所女中(キッチンメイド)→ 料理人(コック)


さらに同じ職種の中でさえも、序列付されていました。序列によって食事の時に座る位置さえ決まっていたそうです。軍隊並の階級社会です。体育会系です。ちなみにメイドの代表選手ともいえる家女中(ハウスメイド)では、こんなカンジです。


アンダー・ハウスメイド → ヘッド・ハウスメイド
サード・ハウスメイド → セカンド・ハウスメイド → ファースト・ハウスメイド


ですから日本語のメイド長に相当するのは、ヘッド・ハウスメイド(Head House Maid)、もしくはファースト・ハウスメイド(First House Maid)辺りが妥当でしょうか。たまにハウスキーパーを指してメイド長って訳すこともあるみたいです。家政婦よりも、メイド長の方が響きが萌えるからでしょうか。
「メイドくん」の作中のメイド長は、上司というよりは、バイトの先輩みたいな位置付けをイメージしてます。ほら、フィクションの中でぐらい、仲間の同僚達と楽しく仕事しててほしいじゃないですか。面倒見が良くって部下や同僚から慕われる先輩像って素敵ですよね。

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