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メイドと言えば、メイド服! カチューシャ! エプロンドレス! フリル! これがなくてはメイドは語れません。メイド服にも色々とありますよね。ピンクやイエローといったウェイトレス風の原色系も可愛いのですが、ボク的に断然好きなのはクラシックな黒!
そんな超個人的な趣味嗜好から、「メイドくん」の作中におけるメイド達(キッチン系は除く)は黒のメイド服を着てもらっています。デザイン自体はヴィクトリアンメイドとはかけ離れちゃってますが、そこはご愛敬で。
そんなメイドがメイドであるためのシンボル的アイテム、メイド服。彼女らがメイド服を着るようになったのには目的があります。その目的とは、「可愛いから」ではありません。じゃあ何のためかって言うと、正解は「差別」のため。シビアです。かなり世知辛いです。夢も浪漫もありません。ヴィクトリア朝時代の人達は、もうちょっと「萌え」とか研究するべきです。<違
元々、女性使用人には制服なんてありませんでした。奥様やお嬢様が着古した洋服の、お下がりをもらって着ていました。そのため昔のメイドさんは、ちょっと流行遅れの、でも奥様達と同じような服を着ていました。リサイクルでエコロジー。ここまではOKです。
ところが、今どんな服が流行っているのかなんて、興味ない人には区別付きません。服を買うならユニクロかジーンズメイト!みたいな連中にとっては、どの服もみんな一緒に見えます。そんなボクみたいな困った人達は、ヴィクトリア朝時代にもしっかり居たようです。
女性のファッションセンスから奥様とメイドを見分けることは、彼らにとって至難の業でした。奥様と思って声を掛けたらメイドだった、もしくは逆に、メイドと思って用事を言いつけたら高貴なお方だった。そんな事件が多発してしまいました。
そこで登場したのがメイド服。差別のための制服です。さすがにメイド服を着ていれば、彼女がメイドだと誰にでも分かります。こうして奥様は、メイドと間違えられるというトラブルを避けることが出来ました。そして現代日本に生きるボクらは、メイド服に萌えることが出来るようになったのです。めでたしめでたし。
そうした歴史もあって、ヴィクトリア朝時代のメイド達はメイド服を着ていました。でも例外がありました。上級使用人に相当する役職では、メイド服を着なくても良いという特権が与えられていたのです。一人は女性使用人のトップであるハウスキーパー(家政婦)。もう一人がレディーズメイド(Lady's Maid)です。ウェイティングメイドとも呼ばれ、侍女と訳されることが多いようです。
侍女は、奥様もしくはお嬢様直属のメイドでした。奥様の身の回りのお世話はもちろん、ドレスの着付けや髪結い、針子や帽子作りといった仕事をしました。いつも一緒にいることから、おしゃべりの相手として、また良き相談相手としても頼りにされたことでしょう。主人直属の使用人であるヴァレット(近侍)の、女性バージョンとも言えます。
メイドの中ではトップエリートである彼女には、多くの特権が与えられていました。先述のメイド服を着なくて良いというのも、特権の一つです。奥様やお嬢様からもらった、お下がりのドレスで着飾ることが許されていました。綺麗なレディーズメイド(侍女)を伴って歩くことは、奥様にとっても誇りでした。
また、ハウスキーパー(家政婦)の人事権が及ばない、数少ない存在でもありました。レディーズメイドの人選は、奥様自らが行いました。上流階級の人々が住まう階上の世界に、最も近い位置にいるメイドでした。
あ、「メイドくん」の作中では、社交シーズン中のため奥様のお供で帝都に出掛けてしまっているので、カントリーハウスは留守にしています。そのため出番はしばらくありません。

男性使用人と言えば、代表格はやっぱりバトラー(Butler)でしょう。もちろん執事のことです。「黒執事」のセバスチャン、「ハヤテのごとく!」のハヤテ、「ヘルシング」のウォルター、数え上げたらきりがないほど様々な執事キャラですっかりお馴染みですよね。時代によって役割は変わりつつも、現代でも存続する職種の一つでもあります。
ヴィクトリア朝時代の執事は、多くの男性使用人達を総括する最高責任者でした。男性使用人のトップとして、部下達が滞りなくサービスを提供しているか目を配り、さらに彼らの人事や育成も担当しました(ただし、主人の私的な使用人であるヴァレット(近侍)の人事は除く)。
残念ながら正体が悪魔だったり、鋼線を操ったりして、主人の護衛として戦闘することはしなかったようです。綴りも、Butlerであって、Battlerじゃないですからね。いや、きっと中にはそんな武闘派執事も居たに違いませんが!
責任は重大で、女性使用人のトップであるハウスキーパー(家政婦)と共に、二人三脚で屋敷の運営を担いました。特に主人のサポート、手紙の管理、訪問客の対応、といった辺りがバトラー(執事)の管轄でした。特に舞踏会やパーティを催す際には、その成否はバトラー(執事)の手腕に掛かっていました。
管理職なので、部下のマネジメントこそが職務の中心であり、自ら手を動かすような仕事は少なかったようです。ただし、例外がワインセラーと銀食器の管理でした。ソムリエのように料理に合ったワインを用意し、購入や保管を行うだけではなく、ワインの清澄法といったスキルまで要求されました。
バトラー(執事)よりも上位の使用人としては、スチュワード(家令)という職種もありました。主人の代理人として、お屋敷と使用人達の管理を行いました。「メイドくん」の作中では、バトラー(執事)がその役割を兼務しています。
ヴィクトリア朝時代のイベントに、社交シーズンというものがあります。春から夏にかけて議会のある時期には、ロンドンに地方の貴族達が集まって、日夜、舞踏会やパーティが開かれたのです。シーズン中に滞在するための、ロンドン近郊にある館をタウンハウスと呼びます。
そして秋から冬の間は、貴族は自分達が所有している領地へと戻ります。本邸とも言えるそちらの館を、カントリーハウスとか、マナーハウスと呼びます。広大な敷地と庭園に、大きなお屋敷というイメージは、カントリーハウスの方ですね。
「メイドくん」は、社交シーズン中の地方都市を舞台にしています。そのため領主夫妻は帝都に滞在中のため、社交界デビュー前の娘だけがカントリーハウスに残っているという設定です。ついでに領主夫妻のお供でタウンハウスに行ってしまった使用人達は、まとめて出番がありません。
そんな出番のないキャラの一人が、ヴァレット(Valet)です。近侍と訳されます。上級使用人に区分され、主人の個人秘書みたいな仕事をしていました。奥様に仕えるレディースメイド(侍女)の男バージョンみたいなものですね。
主人に仕えることが第一優先となるため、フットマン(従者)と違ってお屋敷の仕事はしなくても良かったようです。また採用基準は、主人との相性が第一となりました。そのためバトラー(執事)の人事権が及ばず、主人自らが選任しました。
ちなみに使用人の人数が少なく専任のヴァレット(近侍)を雇えない館の場合は、バトラー(執事)やフットマン(従者)がその役割を兼任しました。逆にヴァレットが居てくれる場合、フットマン達の仕事はずっと楽になりました。
ヴィクトリア朝の田舎の屋敷(カントリーハウス)には、庭園が付きものです。現代に残されたカントリーハウスにも素晴らしい庭園は残っていて、観光客の目を楽しませてくれるそうです。ああーーーーっ、ボクも行ってみてぇええええええ!!
そんな庭園を手入れするのがガードナー(Gardener)です。日本語では庭師とか園丁と訳されるようです。もちろん見た目で楽しませるだけがガードナーの仕事ではありませんでした。菜園や温室で農作物を育てるのも、ガードナーの役割でした。コックから注文された野菜やフルーツを揃えたり、逆に食べ頃の野菜を助言したりしていました。
「メイドくん」の作中でもガードナーは存在しています。でも、アウトドアスタッフ達は、本邸とは別の離れに住んでいるという設定なので出番ありません。
同じく「メイドくん」には出てきませんが、ついでなので他のアウトドアスタッフも紹介しておきたいと思います。まず、当時の上流階級の嗜みとして、ガーデニングに並ぶ高尚な趣味として認められていたのがハンティングです。大きな屋敷であれば、狩場を備えていました。
そこで狩りの進行を助けたり、日頃から狩場や道具の手入れをしていたのがゲームキーパー(狩場管理人、または狩猟番人など)です。野菜だけではなく、お肉もゲットです。嘘です。狩りはあくまでスポーツでした。もちろん趣味としての釣りと一緒で、狩った獲物はおいしくいただいていたようです。
野菜、お肉と来たら、次は牛乳です。敷地内で牛を飼っている自給自足主義的なお屋敷の場合にだけ存在したのが、デイリーメイドやミルクメイド(酪農女中)です。インドアスタッフなのかアウトドアスタッフなのか微妙なところですが、乳搾りや、クリームやバター、チーズといった乳製品作りを担当していました。
ちなみに「メイドくん」の作中では、乳製品は敷地内生産ではなく外注という設定です。そのためデイリーメイドの役割は、キッチンメイド(台所女中)が兼務しています。
ヴィクトリア朝時代、交通手段の中心は馬車でした。当時の英国は階級社会でしたが、メイドを雇うことが出来れば中流階級と言っても良いレベルでした。もう少し家計に余裕のある家であれば、メイドを複数人雇ったり、男性使用人を雇っていました。
そんな彼らの憧れの的。上流階級のステータスシンボル。それが自前の馬車です。自らの馬車を所有することは、中流階級の人達にとって高嶺の花でした。馬車そのものがお高い上に、厩舎や専門職の使用人を抱えることは、かなりハードルの高いことだったのです。今風に表現するなら、お抱え運転手付きの高級リムジンみたいなイメージでしょうか。
そして運転手役となる、馬車を走らせるための専門スタッフがコーチマン(Coachman)です。日本語では御者ですね。技術を要する職種なので、下級使用人の中では比較的待遇も良かったようです。馬車の運転席である御者台は、外からでも良く見えます。そのため走る広告塔の役割も期待されることから、派手で立派な制服を支給されることが多かったようです。
仕事の内容はもちろん、馬を操り馬車を走らせること。主人達がいつでも出掛けられるように、常時馬車の用意を整えていました。そして出掛けた先では、主人達の用事が終わるまで待機するか、もしくは指定の時間に迎えに上がりました。
それと馬の世話係として、グルーム(馬丁)という役職もありました。ヴィクトリア朝時代でも終盤になると、彼らは自動車の運転手や整備士に取って代わられていきました。
「メイドくん」の作中でもコーチマン達は存在はしているはずですが、本邸とは別の離れに住んでいるという設定なので出番ありません。いや、出番はあっても、立ち絵が用意されることはないと思います。仕方ないね。<ぉぃ
ちなみに自分で馬車を持てない人達がどうしていたのか。上流階級でも中の下といった人達は、貸し馬車を利用しました。貸し切りのリムジンサービスみたいなものです。中流階級の人達が利用したのが、辻馬車。シャーロック・ホームズとかでも頻繁に出てきますね。これは今でいうタクシーみたいなもので、行き先を指定するとそこまで連れて行ってくれました。
タクシーなんてとんでもない! とてもそんなお金ねーよ! そんな一般庶民の味方が、乗合馬車(オムニバス)です。22人乗りで、屋内席と屋上席の二階建てでした。バスのご先祖様ですね。
他には駅馬車や郵便馬車と呼ばれる、都市間長距離馬車も運行していました。乗合馬車には決まった停留所はありませんでしたが、駅馬車では宿屋やコーヒーハウスが駅代わりに機能していたそうです。ヴィクトリア朝は鉄道や地下鉄の登場した時代でもあるので、これらも時の流れと共に消えていきました。